「障害者の経済学」で理解する障害者の過去・現在

Posted on 12月 7, 2010 by

 

慶応大学の新進気鋭の経済学者が書いた経済学の本。
このように書くと難しいと思われるかもしれませんが、
あくまでもセンシティブな内容を理解してもらうよう丁寧に書かれているので分かりやすいです。
著者自身も脳性麻痺のお子様をお持ちで、当事者であるからこそ、突っ込んで書けた内容だと思います。

帯の鋭い言葉に著者の気合を感じます。

生徒1.6人につき先生1人、生徒1人に年間930万円を費やす養護学校。
生徒16人につき先生1人、生徒1人に年間90万円を費やす普通校。
多額の予算は障害者本人のニーズに合わせて使われているのでしょうか?

子供を自立させることをためらう障害者の親、
設備は立派だがニーズにこたえきれていない施設、
使いづらい運賃割引制度など、
障害福祉はさまざまな矛盾を抱えています。

本書では、同情や単純な善悪論から脱し、経済学の冷静な視点から障害者の本当の幸せを考えます。

著者は障害者の本を4つのパターンに分けています。

障害者本人またはその親が自らの経験談を綴った自伝のようなもの(自伝タイプ)、障害者の法制度について批判的な検討を加えたもの(制度論タイプ)、障害者本人またはその関係者が新たな障害者観について語るもの(観念論タイプ)、そして障害者の知られざる一面を描いたもの(意外性タイプ)である。

前の3つは出版社も読者も障害者関係で出され、後者は大手出版社と幅広い読者が読むが、「へぇ~、障害者もこういうことできるんだ」という感想で終わってしまうとのこと。
また、いままでの福祉は「転ばぬ先の杖」型で、養護学校や施設をあらかじめ作っておいて、そこへ障害者を配置することで、障害問題が極めてマイナーな存在であり続けていたことがわかりました。
現代社会において障害者がどのように扱われているかを客観的に見ることができる本です。
そして、客観的に見れるからこそ、今後、障害者はどうあるべきかを真剣に考えるのにとても有効だと思います。

『障害者の経済学』 目次
序章 なぜ『障害者の経済学』なのかー

第1章 障害者問題がわかりにくい理由
街で見かけない障害者/「福祉の充実」が障害者を見えなくする/障害者をとりまく人々/利害の衝突/見えない障害者ニーズ/市場が機能しにくい場所/複雑な制度/健常者と障害者の壁は誰がつくるのか/「差別表現」を禁止する理由/「差別表現」規制が障害者問題をわかりにくくする/もっとわかりやすくするために

第2章 「転ばぬ先の杖」というルール
簡単な人生モデル/人生の種類が減ることの弊害/「士農工商」の意味とは?/資格とは何だろうか?/資格制度の持つ意味/資格制度の問題点/福祉車両という「杖」/駐車禁止除外指定車証/日本方式は「先の杖」型/裁判員制度という新ルール/優生保護法/多様性を認める社会に

第3章 親は唯一の理解者か
『母よ!殺すな』/「愛を否定する」/親子の愛の難しさ/利他主義と利己主義/障害者のいる家庭/夫婦間の信頼関係/「それを言っちゃあおしまいよ」/キューブラー・ロスの五段階説/「吹っ切れた」親/子供の自立と親の自立/親の権限

第4章 障害者差別を考える
映画『フィラデルフィア』に見るベッカーの差別理論/競争は差別を減らす/障害者にとっての差別とは/障害者運動の意義/逆差別がもたらす弊害/職業による差別/「分をわきまえよ」/障害者という「身分」/身分制度が障害者を暮らしにくくする/「先の杖」型ルールがもたらす差別/施設建設反対運動/障害者のイメージを壊すべき

第5章 施設は解体すべきか
障害者施設とは何か/障害者サービスの特徴/施設サービスの品質/職員のモラルを高める工夫/障害者と職員との関係/職員のモラルを下げないために/ボランティアは頼りになるか/ボランティアを受け入れるには費用がかかる/なぜ公設施設は「立派」なのか/施設解体論の解釈/戦国時代の障害者福祉

第6章 養護学校はどこへ行く
スタートは民間事業/増え続ける養護学校/養護学校の目的/特別支援教育/託児所化する養護学校/養護学校教員のインセンティブ/養護学校教員になるには/養護学校教員の給与/高い給与は必要か/社タダ会とのギャップ/養護学校のヒーローたち/授業料無料の意味/障害児教育の「ニーズ」とは?

第7章 障害者は働くべきか
障害者の進路/福祉施設の種別/施設で何をするのか/そのような仕事で満足なのか/障害者の就労支援/障害者サイドヘの支援/障害者のやる気をいかに引き出すか/年金のマイナス効果を防ぐ工夫/バックアップ体制の重要性/障害者の働き方/障害者プロレス/障害を売り物にしてはいけないか/櫻田=乙武論争

第8章 障害者の暮らしを考える
施設での暮らし/「施設臭」とは何か/自立生活とは/グループホーム/通過施設の通勤寮/「べてるの家」での試み/障害者が町を活性化する/障害者の暮らしぶりでわかる「地域力」/割引制度の限界/変化する価値観、遅れる制度/条件付き所得保障

終章 障害者は社会を映す鏡
親子関係/歪む親子愛/迷走する学校教育/障害者支援の汎用性/多様な働き方/「先の杖」型社会の終焉/障害者を見れば社会が見える

 





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