コロナ禍で密なコミニケーションを表現する姉
Posted on 6月 11, 2020 by DS21.info
2021年に公演を予定している詩劇「響きと怒り」。
この詩劇は『オンライン時代に“密”を感じる演劇プロセスプロジェクト』。
現在、制作が進められる舞台の主宰は万里紗(女優)と野宮有姫(詩人、企画団体シックスペース主宰、青年団)。
女優として活躍する万里紗さんはダウン症のある弟の存在が今回の舞台のきっかけになったと話します。
そんな万里紗さんはダウン症のある弟をどう思って成長してきたのか、今回の舞台にどのような影響を与えたのか、コロナ禍で舞台を通じて伝えたいことを聞いてみました。
「60歳くらいになったら、弟との生活を綴ったドキュメンタリー映画をプロデュースしたい」とか
出会ったばかりの人に「弟がダウン症で」と言うと「ダウン症の方は天使、っていいますよね!」と言われることにも「なんか違うなぁ」という思いがありました。
私が生まれる90年代より前は、ダウン症を初めとする”知的障害”への知識が日本であまり培われていなかったということと、
「長生きするのが難しい」などのマイナスイメージが蔓延っていたので、そういうイメージを改善しよう!という善意でいろんな方が発信していたからだと思います。
もちろん、同時にはっとするほど優しいところやテレパシーとか第六感的なものが優れてたりして「天使!?」って思っちゃったりもするんですけど(笑)
そういった、人間らしさを全部含めて、女優である自分が、演劇を通してもっとちゃんと仁くんに向き合いたい、
そして仁くんを含めて構築された自分自身に向き合いたいというのが今回の作品の根幹にあります。
しかも、仁くんに「かわいい~!」って寄ってくる人は若いお姉さんが多く、私に「かわいい~!」って言ってくれるのは、おじいさんおばあさんが多く、強烈な嫉妬を抱いていた記憶があります。(笑)
でも時々、筋肉の発達の関係なのか、大怪我をする場面や入院も多く、そういった時すごく心配していた母の姿がぼんやり思い返されます。私自身も、仁くんを失ったら生きていけない、と幼心に思っていたような
弟が私と同じ小学校の特別支援級に通うようになり、明確な「区別」「差別」を感じました。
学校の先生やお友達はすごく仁くんに良くしてくれ、支援級のクラスメートとも仲良くなったんですが、それでも、予算の削減で特別支援級の先生の数が減ってしまったり、特別支援級の生徒に対して、誠実とは言えない先生もいらして、「障害」とそれに伴う差別や抑圧が世の中にはあるんだ、ということを認識していきました。
でもやっぱり相変わらず弟は明るくてかわいくて人気者だったので、私は小学校内で「仁くんのお姉さん」と呼ばれることが多く、敗北感を抱いていました(笑)
中学に入って、弟と学校が分かれてから、弟に対して「いじめ」(詳細は分かりませんが)のようなことや、女子生徒に弟が愛着を示しすぎて怖がられたり、特別支援学校(養護学校)に通うバスで知らない人に殴られたり、 どこの特別支援学校に通うかで政治的圧力をかけられたり・・ といった話を聞くようになりました。
私も私で、両親の離婚騒動があったり、友人たちと確執があったり、受験勉強があったりで、そういったイライラをどこにぶつけていいのか分からない時期でした。
今思えば、それ全部を一人で引き受け、取り仕切っていた母に感謝と尊敬の念しかありません。
(また母にも、大切な友人や、同じようにダウン症のお子さんをもったお母さんの横の繋がりがあったので助かったということも今になって聞く話です)
だから、「私のせいで」というのは考えすぎかもしれないけど、もし私がもっと安定的だったら弟の可能性を拡げるサポートができたのかなと思うときもあります。
でも、すべての経験がなかったら今の自分たちはないし、反抗期があったからこそ<自分の好きなもの>が見つけられたともいえるし。難しいですね!
昨年から「実家を出たい」と言い続けていたので、グループホームでの生活も始めました。
環境の変化によるものなのか、昔あったチック症が再発したり(私もありました)拒食気味になったり(私もありました)好きだったダンスを踊らなくなったり、「仁くんらしさ」も変わり目で、母も私も心配は尽きることがありませんが、たくさんの素晴らしい協力者に囲まれて、少しずつこれを経て新しいステージに行くのでは・・・と希望も抱いています。
結局、弟が私も経た拒食症とチック症になったとき、「障害」という概念はすごく曖昧なボーダーラインに過ぎなくて、
どこまでも「あね」と「おとうと」なんだな、というところに還ってきています。
きっとこれからも関係は変わり続けていくのですよね、楽しみです
そして今回、「詩劇 響きと怒り」のプロジェクトを立ち上げたことで、はじめて”きょうだい”の方たちとのつながりが生まれました
さまざま、活動している同世代の”きょうだい”の姿も目立つようになり、彼らのメッセージからは、同志的なものを感じたり、時代の変化を感じます。今まで、タブー視されていた”きょうだい”としての当事者性を「語る」ことが、もっともっと表舞台に出てくればいいなと思っています
すごく的確に、「知的障害」児と「きょうだい」児の関係性や、その中で起きてくる葛藤や愛の問題を凝縮して描いていると思います
そしてその第1章が「知的障害」を持つベンジーの語り。
彼が見ている世界を、彼が感じる感覚や、そこから結び付いた幼い頃の記憶そのままに描いていきます。
その描写に、私は「当事者」的な写実性を感じたというのが一番大きな理由です
血が一緒だからなのか、前世からの繋がりが濃いような気分で、「仁くんが生まれた瞬間から、私は仁くんと結婚したようなもんだ」って、小学生の時点で思ってたんです。
もちろん、姉としての責任感もあったのでしょうが、それ以上に弟との出会いにはいつも「運命」のような感覚がありました
そして、例えば自分がだれかを愛し、弟と離れることになったならば、それを想像するだけで自分の体を切り刻みたいような強烈な気分に駆られていました。
でもどうしても自分は「女」になっていってしまうし、仁くんには仁くんの人生があるし。
でもこの「特別な繋がり」というのは、単に「健常」のきょうだいだったときに、果たして共通して言えるのか?という疑問もあって。
もしかしたら、これって極々個人的な感覚で、それを私がちゃんと向き合って個人史的に描けたら、
その先に何か普遍的なものが見いだせるんじゃないかと・・・そんな希望的観測です
だからといって、その代替手段として「オンライン」が機能するかというと、そうとは言い切れないのです。
体験を共有する、いわば演劇の儀式性というのは、演劇が古代神に捧げるものであったころから連綿と受け継がれてきた性質であり、また同時に、私たち人間誰しもが顔を突き合せたり、空間を共有したりしたとき確かに感覚や感情の伝播が可能であるという実感に基づいて、その芸術性も高められてきました。
このプロジェクトでは2020年10月実施予定の「ワークショップ」の過程を通し、実際にこの小説の主人公ベンジーのように”知的”に”障害”を持つ方と共に、劇中で使用するための美術や音楽、映像やシーンづくりを行います。
舞台そのものに立つのはまだハードルが高い・・と思っている方でも、ぜひワークショップに参加していただきたいですし、演劇作品の今日的在り方に、私自身も果敢にチャレンジしていければと思っております。
■万里紗とノミヤのプロジェクト『詩劇 響きと怒り』
総合演出・出演 万里紗
詩作 野宮有姫
出演・映像・音楽 中澤ナオ
美術 佐和子
宣伝映像 サイモン・ワンダーフォーク
宣伝ヘアメイク 柳田有美
制作協力 百瀬みずき、企画団体シックスペース
特別協力 合同会社フィールグッド
■公演概要
公演日:2021 年 2 月 および 2021 年内
場所:フリースペース:サブテレニアン 東京都板橋区氷川町 46-4 ほか各地域野外スペース
詳細は感染症の状況を鑑みて決定次第 HP 上で発表
※ゲネプロ特別招待公演について:障害者手帳を持った方、およびその付き添いの方を無料で招待いたします。会場構造 や注意書きについては HP にて随時更新
※チケット購入について:チケット・予約等については感染症の動向を見つつ HP 上で随時更新
■プロセスプロジェクト概要
・第一段:オンライン「語らい」
ゲストスピーカー:杉山直子(米文学研究者)、姫野桂(ライター)、ムー(文学 YouTuber)ほか順次公開
最新オンライン「語らい」開催日
6月16日(火)16時〜18時 「詩を作る」ワーク
6月21日 (日)14時〜16時「響きと怒り」と聖書の関係を紐解いてみるワーク(※内容変更の可能性あり)
聴講、ご参加希望の方は以下のURLよりお申し込みください。
https://marissatonomiya.wixsite.com/thesoundandthefurymn/blank-5
・第二段:オフライン「ワークショップ」
2020 年秋を予定。講師は柳田有美(画家)のほか、順次公開
語らいの参加・聴講希望者はホームページより詳細を確認・ご応募ください。
■「響きと怒り(原題 The Sound and the Fury)」について
1929 年に発表されたアメリカのノーベル賞作家ウィリアム・フォークナーによる小説『響きと怒り』。1920 年代の、アメリカ南部の名門コンプソン家の没落を描いた小説です。四部構成で、それぞれの章が別の人物の視点で語られますが、 物語はすべて「意識のながれ」に沿って描かれおり、記憶や感情が時空間関係なく入り乱れています。
今回は特に、各部において長女キャディ(キャンダス)及び娘のクエンティンについて語られている一方、彼女たち自身 は「語る言葉」を持っておらず、実際には何が起こって、何を考えていたのか、がわからないという点に注目。
本企画では、この「語られなかったこと」を見つめ、演劇として構成することに挑戦します。
■オフィシャルトレーラー
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