タンク屋ケンちゃん(世界ダウン症の日2018に寄せて)

Posted on 3月 21, 2018 by

 

2018年3月21日、今日は国連が定める世界ダウン症の日。

この記念すべき日を祝して、未来のダウン症のある人の短い物語を書きました。

みなさんは今日という特別な日に、どんな未来を願いますか?

photo: MONTAGE ROOM

JDSニュース 2043年3月号

タンク屋ケンちゃん (世界ダウン症の日に寄せて)

2042年3月21日、ぼくは40歳だ。

デジタルネイティブ世代、ジェネレーションZと言われ、ちやほやされつつ、過去の世代以上にゲーム、スマホやタブレット、AIスピーカーで眼と耳を酷使。絶えず頭の中は情報でいっぱいの状態。溢れかえるコンテンツを吸収しきれないことを10歳になる前に自覚した。

そんな状況で、ぼくたち世代がたどり着いたのはインフォパージ。

脳の許容量を超えた情報や自意識を開放して安らぎを得ること。infopと略され、東京のあらゆるところに、それを目的としたお店ができることになった。

infopの方法はいくつかあり、アンヘルシーの代表はアルコールだが、ヘルシーなものは医療大麻やマインドフルネスからルーツに戻った瞑想など様々な方法がある。
かつて、ネットカフェやカラオケがあった場所には、infop向けのお店が入り、様々なパージのメニューを取り揃えている。

photo: MONTAGE ROOM

ぼくもinfop向けのお店をJR巣鴨駅のそばにだしている。

巣鴨はかつてシルバー向けのショッピングストリートとして栄えたが、今はシェアリングエコノミーよろしく、モノを所有しない人たちの宿が多数ある場所になった。

ダウン症のある兄ケンが店長を勤め、店名は「タンク屋ケンちゃん(Infop’s Tank KEN-chan)」。アイソレーションタンクにより効率的に瞑想を促すお店だ。

アイソレーションタンクでは、外界から視覚、聴覚を遮断し、エプソムソルトの溶液に身体を浮かせることで皮膚感覚から離れ、効率的に瞑想を行うことができる。

意識が情報を欲しがった時代から情報を締め出す時代になったのは皮肉だが、拡張現実を良しとして意識へ過剰に訴えかける技術により疲労困憊した脳を休ませ、自らの無意識と対話する瞑想を、アイソレーションタンクは容易に実現してくれる。

兄ケンの柔らかな接客態度が評判を得ているのは確かだが、タンク後のケンとのダイアローグが心地よいという感想が多いのは興味深い。

infopした直後の人は、個人差や経験の差はあるが、脳内で悶々としていた情報や自意識から開放され、自分以外のことから感じ得る全てを受け入れられる状態となる。

そんなときに兄ケンからゆっくりと語りかけられる「どうでしたか? 」という声色、言葉は、とても気持ちがいいものらしい。アンケート結果をみてはニヤリとする。

ケンも仕事として、その役割にやりがいを得ていることは弟として嬉しい。

兄は周囲の環境により、緩やかな適応能力をみせる。急な変化にはあからさまに不快感をみせるが、緩やかな変化の連続にはとても良い顔をするのだ。

infopを体験する人は、その前後で、無意識はかなり変容しているが、意識はあまり変わらず、意外と無意識の変化に気がついていないのかもしれない。

この緩やかな意識の変化に立ち会う兄を羨ましく思うとともに、お客様を心地よくできる兄を尊敬している。

タンク屋ケンちゃんオーナー
趙 義

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

参考)
マインドフルネス
アイソレーションタンク

 




あわせて読みたい

  • 2028年の世界(世界ダウン症の日2017に寄せて)
  • NYファッション・ウィークにダウン症のある男性モデル登場!
  • 日本初!?インクルージョンまんが「ジョンとインクルー」
  • パンク症候群(The Punk Syndrome)
  • はじめて歩いた時の感動
  • ▲先頭へ