アルツハイマーとダウン症

Posted on 11月 17, 2010 by

 

By Dr. William C. Mobley カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)
原文投稿日:2010年11月15日
ニュースソース:Down syndrome, then Alzheimer’s

dr.williamc.mobley

20世紀半ばからつい最近まで、ダウン症は子供の病気だと考えられていました。
1929年の平均寿命は9歳。
先天性心疾患が処置できず、幼少期に亡くなっていました。
また、ダウン症の子供は他の子供に比べ白血病になる確率が10~15倍もありました。
健康上の問題が見つかっても適切な治療を受けてこれませんでした。
1980年代後半になっても、ダウン症の平均寿命はわずか25歳だったのです。

しかし、今では大きく状況が変わりました。
社会体制の整備や健康管理が改善されたことで、寿命が50縲鰀60歳と飛躍的に伸び、それ以上長生きをする人もいます。
ところが長生きをするということは、ダウン症のある人にとってリスクを伴います。
長生きとアルツハイマーは隣りあわせなのです。

リスクの個人差はありますが、全米ダウン症協会(NDSS)では35歳以上の約25%がアルツハイマーの兆候があると言っています。
そして加齢とともにその確率は高くなるのです。
一般的にアルツハイマーは50歳前に発症しません。
現在、アメリカには約530万人のアルツハイマー患者がいますが、そのうち510万人は65歳以上の人です。
65歳以上の人でアルツハイマーの人は13%になります。
ダウン症のある人ではその確率が3~5倍と高く、若いときに兆候が現れます。

ダウン症のある人と家族にとっては悲劇ですが、科学的に言えばその数字は驚くに値しません。
ダウン症とアルツハイマーについて調べると、表裏一体の関係であることがわかるのです。

ダウン症とアルツハイマーの脳を検死した報告があります。
病理学的には脳の構造がほぼ同じで、専門家が診てもどちらがダウン症かアルツハイマーかを見分けることは難しいと言われています。

私は若いころアルツハイマーの原因を解明しようとしました。
しかし、20、30年研究しても解明できませんでした。
最近ではダウン症の研究にフォーカスしています。
そこで思うのは、ダウン症とアルツハイマーはやはり関係性があるということです。
どちらも生物学的な秘密を共有していると思っています。
その秘密を解明すれば、医学の新しい扉を開き、効果的な治療ができるでしょう。
そして、おそらく病気を治すこともできるはずです。

アルツハイマーの話題がメディアに出ない日はありません。
新聞や雑誌、テレビやラジオで連日報道さています。

アルツハイマーはそれくらい恐ろしくまた不可解な病気なのです。
この神経病は人々の記憶と心をむしばみ、ときに命さえ奪います。
初期段階において、ほとんどの患者は自らが病になっていることに気づいています。
しかし、効果的な治療方法は無く、あっても進行を緩やかにする方法だけです。
根本的な治療方法は存在しないのです。

アメリカ政府はアルツハイマーの研究に年間約6億4000万ドルを費やしています。
財団や個人からも研究費が提供され、これらを含めると年間10億ドル近くが使われていることになります。
癌研究の予算は48億6000万ドルなので、それにはおよびませんが、それでも資金提供はかなりのものです。

癌は心血管疾患に次いで2番目に多い死亡原因です。
毎年約57万人のアメリカ人が癌で亡くなっています。
アルツハイマーは死亡原因としては7番目で、毎年7万4人が無くっており、その数は増え続けています。
アメリカのアルツハイマー協会によれば、70秒に1人がアルツハイマーを発症しています。
2050年までにその間隔は33秒になり、現在の3倍の数にあたる1340万人がアルツハイマーになると予測されています。
そうなると全ての老人はアルツハイマーが死亡原因となることでしょう。

ダウン症は遺伝的にアルツハイマーになる可能性が高い母集団としては一番大きなグループです。
先に述べたように、ダウン症のある人は中年までに発症するのです。
ダウン症のある人は科学的な観点から、極めて貴重な研究対象なのです。
しかし、実際にはあまり研究対象とされていません。
理由はわからないのですが、私は研究対象にしたほうがいいと思っています。

研究対象にしたほうが良い理由は一般的に聞こえるかもしれませんが、ダウン症は信じられないくらい複雑な病気だからです。
診断するのは簡単なのですが、脳を含む様々な器官と関連していて、最新の解析では少なくとも350の遺伝子と関係がありました。

ダウン症の遺伝子を解読することは難しく、その結果を理解することも困難です。
多くの遺伝子が脳機能へ相互作用するのであれば、どの遺伝子が脳機能障害を起こす原因であるかを解析しても、それで解決とは言えません。
驚くべきことではありませんが、多くの科学者は限られた時間で研究成果が出て、結果がすぐに報酬となるテーマを選びます。
幸いなことに、ダウン症の研究はその対象になり得ます。
例えば、私たち研究者はダウン症に影響を及ぼす重要な遺伝子を発見しました。

(略)

ダウン症は21番目の染色体が1つ余分に多いことが原因です。トリソミー21とも呼ばれています。
これがアルツハイマーに関係があるかどうかはわかっていません。
しかし、おそらくその中にAPPと呼ばれる遺伝子を含んでいると考えられています。
通常、APPはアミロイド前駆体タンパク遺伝子と呼ばれるタンパク質を形成します。
そして、それは(脳と骨髄を含む)多くの組織と器官で見られますが、どのような機能をするか分かっていません。

APP遺伝子の突然変異とその遺伝子の余分なコピーは、アルツハイマーを引き起こす組織になります。
潜在的なメカニズムは完全にわかっていませんが、おそらくAPPによってつくられるペプチド(短いタンパク質の断面)が含まれています。
私たちはこのペプチドがニューロン機能に干渉し、死なせる原因であると確信しています。
しかし、なぜこのようなことが起こるかは分かっていません。
APPは21番目の染色体に配置されるので、(21番目の染色体の数が多い)ダウン症のある人には通常の人よりも多くAPPのコピーがされるわけです。
(注:結果、ダウン症はアルツハイマーになる確率が高くなるのです)

ダウン症を想定したマウスの実験では、余分にコピーされたAPPを消去すると、通常は死ぬはずのニューロンが生き残りました。
そして、そのマウスはアルツハイマーを発症しませんでした。
昨年、スタンフォード大学の元同僚と私の研究室は、ノルアドレナリンを増やすことが認知機能の低下へつながると発表しました。
実際にダウン症を想定したマウスでは認知機能が向上しました。
この成果によりアルツハイマーを発症したダウン症のある人に効果的な薬品開発ができると思います。
私はもう少しでダウン症のある人への治療ができると信じています。
また、一般のアルツハイマー患者への応用も可能だと思っています。

ニュースソース:Down syndrome, then Alzheimer’s

■参考URL
ダウン症遺伝子が識別された
アルツハイマー型認知症
脳血管内皮細胞特異的なアミロイドβ前駆体タンパク質を発見

 




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